ホタルイカの寄生虫の恐怖 摂取すると胃や腸の壁を食い破る
サバやサケなどに寄生する寄生虫、アニサキスによる食中毒(アニサキス症)が、この10年で20倍以上と急増しています。
寄生虫で注意するのはアニサキスだけではありません。
寄生虫学が専門の宮崎大学医学部教授・丸山治彦氏が言う。
「イカの場合は、刺身だけ気をつければいいというわけではありません。
塩辛でも、新鮮な場合は気をつけてください。
アニサキスは、寄生元の魚が死んでから日数が経てば死滅するので、瓶詰めの場合は大丈夫だと思いますが、お店の自家製など、加工したてのものの場合は、アニサキスがまだ生きている可能性があります。」
サバの場合も、酢でしめただけのシメサバでは、アニサキスを死滅させることはできません。
魚の寄生虫被害はアニサキスが圧倒的に多いですが、他にも寄生虫は存在します。
怖いのは旋尾線虫(せんびせんちゅう)
今が旬で、居酒屋のお通しの定番でもあるホタルイカにはこんな虫が。 「アニサキスとは別の、旋尾線虫(せんびせんちゅう)の『タイプ10』と呼ばれる寄生虫の幼虫がいます。食物と一緒に摂取すると、胃や腸の壁を食い破って皮膚の下を這いずり回るので、お腹にミミズ腫れができて痛痒くて堪らないという事態に陥ります。
ヒトがホタルイカを踊り食いや刺身として生食することにより旋尾線虫虫移行症を発症します。
酒の肴として食べる場合が多いため、感染者は中年男性が最も多く、幼児や女性には少ないのです。
平成12年6月20付日本経済新聞に「ホタルイカから寄生虫」という掲載記事があり、その後NHKテレビ等でも放映され、大きな注目を浴びました。
また、厚生労働省からホタルイカの取り扱いに注意するよう6月21日付で通知が出されました。
記事の内容は、国立感染症研究所で東京都内のスーパーで販売された富山県産の生食用のホタルイカを3回にわたり調査したところ、旋尾線虫という寄生虫の幼虫が検出されました。
(ホタルイカ168検体中12検体、7.1%)というものです。
旋尾線虫(せんびせんちゅう)とはどんな寄生虫?
そこで今回は、旋尾線虫について簡単に解説します。比較的最近に発見されたこの寄生虫の学名は未だ決定されていません。旋尾線虫の幼虫には多くの種類があり、ホタルイカから検出されるものはタイプⅩ(テン)と呼ばれています。
幼虫タイプⅩ(テン)は、体長約10mm×体幅約0.1mmの糸くずのような細長い虫です。
この虫が中間宿主であるホタルイカやタラなどの内臓に寄生しています。
ホタルイカでの寄生率は2~7%といわれています。
終宿主ははっきりとわかっていませんが、海のほ乳類か鳥類と考えられています。
ヒトに感染するとどうなるの?
ホタルイカなどの中間宿主にいる幼虫をヒトが食べると、約1~3日のうちに腹部皮膚にミミズばれができる「皮膚爬行(はこう)症」や嘔吐、腹痛を訴え、最悪の場合には「腸閉塞」を起こすこともあります。皮膚爬行症(クリーピング・ディジーズ)とは 皮膚爬行症(クリーピング・ディジーズ)とは寄生虫が体内に侵入し、皮膚の表面を移動する時に発生する波状のものです。
かゆみや痛みを伴うことが多く、寄生虫を摘出するのが最適です。
時には体の内部にまで入ってしまうこともあるので早めに除去する必要があります。
主に海外で生食をすると寄生されることがあります。
皮膚爬行症の主な症状は、線状の赤い腫れやかゆみです。
線状や波状のあとが移動するようにして動くのも特徴の1つです。
血管のように見えることもありますが、痒みや痛みを生じながら移動するので摘出手術が必要です。
海産物などを生食すると寄生されてしまうことも多いので注意が必要です。
腸閉塞は入院し数日の絶食で軽快することが多いのですが、重症の場合には手術が必要です。
予防はどうすればいいの?
ホタルイカは大きさが手頃なサイズで、内臓も美味しいため、生で丸飲みしたり刺身で食べられることが少なくありません。この旋尾線虫の幼虫は、ホタルイカの内臓(胃・腸)の中にしかいません。
したがって、完全に内臓を取り除くことにより、この寄生虫に感染する危険性をほとんどなくすることが可能です。
この寄生虫は高温には弱いため、沸騰水に投入し30秒以上、中心温度60度以上で処理すれば安全です。
したがって釜ゆでなどの加工品は安心です。
また、-30℃の低温で4日間以上、-35℃(中心温度)では15時間以上、-40℃で40分以上凍結処理されたホタルイカはそのまま食べても安全です。
また、イカやサバなどでよく見られるアニサキスという寄生虫は、旋尾線虫と同様に一般的な塩や酢による調理では死滅しませんが、この寄生虫も凍結処理により死滅します。
要は生のホタルイカは食べないということです。
ゆでた物か冷凍した物を食べましょう。
確率は7%です。
10匹食べたら完全に感染します。
これらの魚介類を生で食べるときには、これら寄生虫ばかりでなく、季節がら食中毒にならないよう、食品の衛生的な取り扱いに十分注意して、安全で美味しく、愉快な食生活を楽しみましょう。
(生物学部 医動物研究室)